氷河の上空(オーロラの代わりの贈り物)

“McKinley Sep 2012  窓越しに見た氷河の輝き”

記憶の扉を開けようとしたとき、最初に立ち上がってきたのは、白いきらめきの記憶だった。

セスナの窓から見た、氷河の輝き。揺れる機体の中で、私は夢中でカメラを構えていた。

2012年93日、アラスカ。

その日は朝からデナリ国立公園を巡る予定だった。中国地方と四国を合わせたほどの広大な土地を、フェアバンクスからカンティシュナまで、バスで5時間かけて走った。水枯れの谷と川、丘と草原を越えて、野生のベリーが競い合うように色づく草紅葉が、遠くの山々まで続いていた。

目的地のロッジでは、砂金すくいの真似事や散策を楽しんだ。近くに飛行場があり、セスナがしきりに離発着していた。帰り道が同じルートだと知っていたので「できれば、違う景色が見たい」と思い、ツアー添乗員に無理を言い、6人乗りのセスナ機をチャーターした。珍しい客だったのだろう。操縦士は奮発して、標高6190mのマッキンリー(デナリ)山を越えてくれた。

セスナの中、私はマッキンリーの頂上と氷河を見逃すまいと夢中だった。カメラが窓ガラスにぶつかるほど揺れる機体。構えるのが難しく、気を取られて、怖さを忘れていた。

この旅は「9月でもオーロラが見られるよ!」との触れ込みで出かけた旅だった。目的のオーロラを見ることは叶わなかったけれど、あの空の旅は、今になって記憶の奥から静かに立ち上がってくる。

思い切って出かけて、わがままを言った選択が、思いがけない風景を残していた。
その頃はまだ知らなかった“セレンディピティ”だったのかもしれない。

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